「毎年夏になると現場で誰かが熱中症になる」「会社として熱中症対策をしなければいけないと言われているけど、何をすれば?」という悩みを持つ管理者・経営者の方も多いのではないでしょうか。
職場での熱中症は、労働安全衛生法に基づく事業者の義務として対策が求められています。毎年10〜20名程度が職場での熱中症で死亡しており、会社の責任として真剣に取り組む必要があります。
この記事では、会社・職場として取り組むべき熱中症安全対策を、法律の観点も含めて解説します。個人としての対策は職場・屋外作業の熱中症対策で確認してください。基本的な熱中症対策は熱中症対策2026年版の基本ガイドもあわせてご覧ください。
法律に基づく事業者の義務

労働安全衛生法および熱中症予防の関連通達(厚生労働省)では、事業者が行うべき熱中症対策が定められています。
- WBGT値の把握と作業環境の管理
- 作業時間・強度の適切な管理
- 熱中症予防教育の実施
- 緊急時対応体制の整備
- 健康管理(日常の健康観察・既往症の把握)
これらを怠って従業員が熱中症になった場合、会社が労働安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
WBGT(暑さ指数)の管理
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)は気温・湿度・輻射熱を組み合わせた「体感的な暑さ」の指標で、熱中症リスクの判断に最も有効な数値です。
WBGT別の作業管理基準
- WBGT 25℃未満:通常の作業管理
- WBGT 25〜28℃(注意):激しい作業は注意・水分補給の強化
- WBGT 28〜31℃(警戒):激しい作業を避ける・休憩を増やす
- WBGT 31℃以上(厳重警戒):激しい作業の中止を検討・随時体調確認
WBGT測定器は1万円程度から購入でき、現場に設置することで安全管理の根拠になります。
職場環境の整備
①冷房設備・休憩場所の確保
屋外作業現場では、冷房設備のある休憩場所(仮設冷房室・冷房付きコンテナなど)の確保が推奨されています。少なくとも日陰で風が通るテント・パラソルを設置し、休憩できる環境を整えることが最低限の義務です。
②水・塩分の無償提供
事業者が水分・塩分(スポーツドリンク・塩タブレット)を職場に用意することで、従業員が自費で購入しなくても補給できる環境を整えることが、現実的かつ効果的な対策です。
③作業スケジュールの工夫
- 特に暑い時間帯(午前11時〜午後2時)の重作業を避ける
- 早朝・夕方に重い作業を集中させる
- 高温多湿日(WBGT28℃超)は作業強度を下げる
熱中症予防教育の実施
厚生労働省は、夏季前(5〜6月)に従業員への熱中症予防教育を行うことを推奨しています。
教育に含めるべき内容
- 熱中症の症状と重症度の見分け方(症状と重症度の見分け方)
- 応急処置の手順(応急処置マニュアル)
- 水分・塩分補給の重要性
- 緊急時の連絡フロー(119番・社内の安全管理者への連絡)
- WBGTの確認方法と作業中止基準
健康管理と体調確認の仕組みづくり
日常の健康観察
- 作業開始前の体調確認(「昨夜の睡眠は取れたか」「朝食を食べてきたか」の声かけ)
- 前日の飲酒・睡眠不足・発熱など、熱中症リスクを高める状態の把握
- 基礎疾患・服用薬の情報把握(プライバシーに配慮しつつ安全管理に活用)
新入社員・異動者の特別管理
暑い環境に慣れていない新入社員・現場未経験者は特に熱中症リスクが高いです。最初の2週間は特別に配慮した作業管理と、こまめな体調確認を実施してください。
緊急時対応体制の整備

万一に備えて、以下を事前に準備・周知しておくことが重要です。
- 緊急連絡先リスト(119番・かかりつけ医・安全管理者)
- 応急処置用品の設置場所(経口補水液・保冷剤・冷却グッズ)の全員への周知
- AEDの設置場所と使い方の周知
- 「熱中症疑いの場合は必ず報告する」という文化の醸成
記録と報告の義務
職場で熱中症が発生した場合、業務上の傷病として労働基準監督署への報告が必要になります(4日以上の休業を要する場合)。発生状況・対処内容・再発防止策を記録に残しておくことが法的にも重要です。
よくある質問(Q&A)
Q. 「熱中症で倒れたのは本人の不注意」と言えますか?
事業者が適切な安全配慮措置を講じていなかった場合、「本人の不注意」として片付けることはできません。労働安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるケースもあります。安全管理は会社の責任です。
Q. 小規模な会社でも熱中症対策は義務ですか?
はい。労働安全衛生法は従業員1名からでも適用されます。規模に関係なく、従業員を雇用している事業者には安全配慮義務があります。
Q. 熱中症対策グッズ(空調服・経口補水液)を会社が用意することは義務ですか?
法律で明示的に義務化されているわけではありませんが、適切な安全配慮の一環として推奨されています。費用対効果を考えると、グッズへの投資は医療費・生産性低下のリスク軽減につながります。対策グッズについては熱中症対策グッズ2026おすすめランキングも参照してください。
Q. 「熱中症にならないように」という指示だけで対策として十分ですか?
不十分です。「指示を出した」だけでは安全配慮義務を果たしたことにはなりません。環境整備・教育実施・体調管理・緊急時対応という具体的な措置が必要です。
業種別・熱中症対策のポイント
業種によって熱中症のリスクと対策の重点が異なります。主要な業種別に確認しましょう。
建設業
- 屋外での重作業が多いため、WBGT管理が特に重要
- 空調服(ファン付き作業着)の支給が普及しつつある
- 鉄筋・アスファルト工事など熱源が多い環境では特別な対策が必要
- 建設現場の安全衛生担当者による定期的な体調確認が欠かせない
農業・林業
- 農繁期(6〜8月)は炎天下での長時間作業が続く
- 休憩場所・日陰の確保が難しい場合は、移動式テント・パラソルを活用する
- 一人作業が多い農業では、定時連絡(1〜2時間ごと)の仕組みが命を守る
サービス業(飲食・小売)
- 厨房・倉庫・客席など、業務によって高温環境が異なる
- 水分補給のタイミングを業務スケジュールに組み込む工夫が必要
- お客様対応中でも「症状が出たら中断してよい」という文化づくりが重要
製造業
- 鋳造・溶接・食品加工など高温設備の近くでの作業リスクが高い
- 防護服着用時は空調服の下への着用など工夫が必要
- 班単位での定期的な休憩・体調確認が有効
熱中症対策コストの考え方
「対策にコストをかけたくない」という経営判断の落とし穴について説明します。
- 熱中症1件あたりの企業コスト:入院を要する熱中症1件が発生すると、医療費負担・代替人員費・業務遅延・精神的ダメージなどで数十万〜数百万円のコストが発生することがある
- 労災認定の場合:会社が安全配慮義務違反を問われた場合、損害賠償訴訟になれば賠償金は数百万〜数千万円に達するケースも
- 対策コストの目安:空調服1着2〜5万円・WBGT計1万円・経口補水液ストック数万円。これらは1件の熱中症事故コストと比べて明らかに安い
会社が今すぐ着手できる熱中症対策10項目
予算・規模に関係なく、どの会社でも今すぐ始められる対策を優先度順にまとめます。
- 水・スポーツドリンク・塩分タブレットを職場に常備する(最優先・低コスト)
- 今日のWBGT値の確認を毎朝の作業開始前に実施する(無料・習慣化するだけ)
- 休憩場所(日陰・冷房)を確保・整備する
- 全従業員に「熱中症症状が出たら必ず申告する」ルールを周知する
- 新入り・異動者の最初の2週間は特別な見守りと作業強度調整をする
- 緊急連絡先(119番・社内連絡先)のリストを現場に掲示する
- 応急処置用品(経口補水液・保冷剤・冷却スプレー)を現場に設置する
- WBGT計を購入して客観的な基準で作業管理する
- 夏季前に熱中症予防の研修・教育を実施する
- 屋外作業者に空調服(ファン付き作業着)を支給する
会社・職場の熱中症対策に関する追加Q&A
Q. 従業員が熱中症になった場合、会社はどこに報告しますか?
業務上の熱中症で4日以上休業した場合、労働者死傷病報告書を所轄の労働基準監督署に提出する義務があります(1〜3日の休業は四半期ごとの集計報告)。死亡・重傷の場合は遅滞なく報告が必要です。未報告・虚偽報告は法律違反となります。
Q. 小規模な事業所でも空調服を全員に支給する義務はありますか?
空調服(ファン付き作業着)の支給は法律で義務化されていませんが、安全配慮義務の観点から「有効な対策手段があるのに実施しなかった」と判断される場合があります。費用対効果を考えると、1着2〜5万円の空調服は重大事故のリスクと比べて安価な投資です。特に建設業・農業など熱中症死亡が多い業種では優先的な導入が推奨されています。
Q. 「熱中症対策委員会」のようなものを設置すべきですか?
大規模事業所では専任の安全衛生委員会・衛生委員会の設置が義務づけられています。中小企業でも「夏季の熱中症対策を担当する安全衛生担当者」を指名することで、組織的な対策が取りやすくなります。毎年4〜5月に今年の対策計画を立て、現場に周知する仕組みを整えることが重要です。
Q. 暑い日の作業中止基準を誰が判断すればいいですか?
現場責任者・安全衛生担当者が判断しますが、判断基準(WBGTの数値・天気予報など)を事前に文書化しておくことで判断がしやすくなります。「WBGT31℃以上の場合は激しい作業を中止する」という明確な基準を会社のルールとして設けておくことで、個人の判断に頼らない安全管理が実現できます。
Q. アルバイト・派遣社員も熱中症対策の対象ですか?
はい。雇用形態に関係なく、事業所で働くすべての人(アルバイト・パート・派遣・業務委託など)に対して安全配慮義務があります。特に慣れていない新人・季節雇用者は暑熱順化が不十分なため、最初の2週間は特別な配慮が必要です。
2026年夏の職場熱中症対策の重要性
近年の気温上昇と猛暑日の増加により、職場での熱中症リスクは年々高まっています。2026年の夏も厳しい暑さが予想される中、「今年こそ対策を強化する」という経営判断が求められています。一度の熱中症事故は従業員の健康・企業の信頼・生産性に大きなダメージを与えます。今すぐ行動を起こし、この夏を「熱中症ゼロ」で乗り切りましょう。
2026年夏に向けた職場の熱中症対策スケジュール
今年の夏に向けて、管理者・経営者が取り組むべき対策スケジュールをまとめます。
4〜5月(今すぐ):昨年の熱中症発生件数・状況を振り返り今年の対策計画を立てる。WBGT計・空調服・経口補水液などの調達・整備。従業員への熱中症予防教育の計画立案。
梅雨前(6月):休憩場所・給水設備の整備・点検。従業員への熱中症教育の実施(症状・応急処置・緊急連絡先の周知)。新人・慣れていない作業者のリストアップと管理計画の立案。
梅雨明け直後(7月):毎朝のWBGT確認を業務開始時のルーティンに組み込む。「梅雨明け2週間は特別な高リスク期間」として監視を強化。熱中症が発生した場合の報告フローの再確認。
このスケジュールを実行することで、「毎年夏になると誰かが倒れる」という状況を変えることができます。
まとめ:職場の熱中症対策は「投資」として取り組む
職場での熱中症対策は、コストではなく投資と考えることが重要です。従業員一人が熱中症で倒れれば、医療費・代替人員コスト・業務遅延・企業イメージへのダメージが発生します。
WBGT管理・環境整備・教育・緊急時対応を組み合わせた体系的な対策で、誰も倒れない職場をつくってください。「今年こそは事故ゼロで夏を乗り切る」という目標を会社全体で共有し、従業員一人ひとりが安心して働ける環境をつくることが経営者・管理者の責任です。